優秀な若手が辞めるのは危険信号
企業としては創業30年以上で、ビジネスも順調に伸びて、今は急拡大ではないが成熟期に入っている会社。そこへ中途で入社して数年の30代前半の若手の営業マン、とがっていて粗削りながらも自分に自信があり、成果も残す。でも、先輩やベテラン社員からは、そのつっけんどんな物言いから、少し煙たがれている。そんな社員が退職してしまった。本人は本当の理由は言わないが、この環境にいても自分の成長はないと思ってのこと。
こんな退職者がでる会社は将来に向けた危険信号です。将来性のあるいい人材が抜け、保守的な社員が残り、良い人材が入ってきてもすぐにやめる、そんな会社になっていく危険があるということです。
マインドの仕組みでこの状況を説明します。
人の脳は慣れ親しんだ状態(コンフォートゾーン)を維持しようとします。だから昨日までとは違うことをやりたくないのが人間の脳の持つ1つの側面です。なぜそんな仕組みがあるか、それは昨日とは違うことをしようとすると死のリスクが上がると人の脳は捉えるからです。一方で、新しいことを想像してやってみよう!と思う、これも脳のもう1つの側面です。この現状を維持しようとする部分と新しいことをやろうとする部分が綱引きをしています。
個人が集合した組織にもこのコンフォートゾーンがあります。組織も基本的に、これまでの状態を維持しようとします。個人が組織を離れる(退職する)理由は、この個人と組織のコンフォートゾーンのずれによって起きるものです。会社のコンフォートゾーンが一向に変わらない、でも個人のコンフォートゾーンは移行して外に飛び出してしまった。すると、お互い(組織と個人)居心地が悪くなります。
先の例では、それが起きているわけです。企業としては、成熟期に入っている、入社20年以上というベテランが多く、彼らは過去の成功体験もっている。そうすると、そこには固く動きづらいコンフォートゾーンが形成されます。これまでビジネスを拡大して成長させてきた中で、最適化された自分達なりの仕事のやり方があり、組織は分業化され、部門ごとには最適化されているが、部門間で協力して何かをしようとするとうまくいかないことが多い。社員は一様に忙しく働いていて、口々には時間がない、リソースが無いといっていて、愚痴や不満もちょこちょこ聞こえてくる。このような組織は、これまでに築き上げてきたコンフォートゾーンががっちりとうごかず、より現状を維持している状況なのです。
そんな中、自分に自信があり成果を残している営業マンは、お客さんからも信頼され、次々と新しい提案をしようとします。目指す目標は高く、コンフォートゾーンは高いレベルにあります。新しいことを提案し、新たな技術を取り込んで、さらなる売り上げをあげていく、それがコンフォートゾーンなのです。
こうなると、これまでのコンフォートゾーンに慣れ親しんでいる組織の多くのメンバーは、1人組織のコンフォートゾーンから飛び出している営業マンを自分達の組織のコンフォートゾーンに引き戻そうとします。何かとその営業マンのやる振る舞いや発想が突飛に聞こえて、上手くいくように思えない。自分達が否定されているように思ったりします。
こうした、多くの組織のメンバーの反応をドリームキラーと呼びます。こうなると、営業マンからすると、自分のやろうとしている新しい仕事を、保守的なベテランメンバーや上司が邪魔をするように感じます。「そんなことはできるはずはないから、やめておきなさい」ということを理論的に説明されます。そうするといかんともしがたいストレスが営業マンにたまってきます。そして外に次の世界をみつけ、退職します。
このような強固なコンフォートゾーンを持った組織、この先、どうなるでしょうか?想像つきますよね。先にお話ししたように、将来性のあるいい人材が抜け、保守的な社員が残り、良い人材が入ってきてもすぐにやめる、というようになります。
では、どうしたらいいか。組織のコンフォートゾーンを変えていくことです。そのためにやることは大きく2つ。1つは組織のゴールを設定、共有すること。もう1つはそのゴールの臨場感が高まるような言動を全員で行っていくこと。この2つが行われていくシステムを
組織の中に作っていくことが必要です。詳しくは「組織の空気(コンフォートゾーン)を変えることが成功のカギ」にて。