本当は社長の話に社員は無関心です
みなさんに質問です、みなさんは部下に自分の意図をきちんと伝えていますか?それは、具体的な仕事の意図や目的と言ったものだけではなく、ご自身がイメージしている会社として実現したいビジョンはどうですか?
もう1つ質問、その伝えていることはちゃんと部下に伝わっていますか?
どうでしょう?極力意図は伝えているけど、部下の反応を見ていると本当に伝わっているのかと疑問に思ったり、伝わっていなくてイライラしてしまうことありませんか。そしてあの手この手でいろんな伝え方をする、でも伝わらなくて一層ストレスになる。
私のクライアント企業では毎朝朝礼があり社長は一生懸命、自分が重要だと思うことを社員に伝えていました。それも毎朝。でも日々の社員の言動をみていると、社員に伝わっているようには思えない。それに業を煮やして、自分が話したことを秘書に文章に起こさせて、全員に配布するようになりました。それでも伝わらないので、今度は配布する前に、その中でも重要なところに赤線をぐりぐりと入れて配布するようになりました。それでも伝わらないと嘆いていました( ;∀;)
なぜこんなことが起きるのでしょうか?社員の皆さんは決して悪気があるわけでもなく、社長の話なんてどうでもいいやと、不真面目に構えているわけでもありません。
実はこれも脳の仕組みです。
どういうことかというと、人の脳は自分にとって重要な情報しか処理しないのです。
これはRAS(ラス:Reticular Activating System)という機能によるものです。RASというのは外部から入ってくる情報に対する振り分け機能で、自分にとって重要な情報とそうでない情報を自動的に振り分けてくれるフィルター機能です。(詳細は「RASとは」「スコトーマとは」を参照)
例えば、パーティーや雑踏の中、多くの雑音がある中でも、自分の名前がちらっと聞こえると、ハッと聞こえてきた方に意識を向けることありませんか。これがRASの働きです。本当はそんな多くの雑音の中、自分の名前なんて他の雑音以下の音量なのですが、そこだけクリアに聞こえてくるのです。それは自分の名前という情報が他の雑音より重要だからRASというフィルターを通り抜けて脳が優先的に処理するようになっているのです。(1953年に心理学で提唱されている「カクテルパーティー効果」として知られています)
先ほどお話しした、中々社員に伝わらない社長の話は、社員のRASを通り抜けていないのです。こんなことを言うと怒られてしまいますが、社長の話は、聞き手の脳にとってはパーティー会場の雑音と同じだったということです。そもそも社長と社員にとって重要なものは違うのです。つまり社長と社員で見ている世界は違うということです。
例えばこんなことありませんか。「報酬」を求めて働いている上司がいるとします。
その上司は「報酬」が自分にとってのモチベーションなので、「当然、部下も同じように考えている」と思い込んでいる。そんな上司は、部下にこんな言葉をかけることになります。
「これをやり遂げたら、ボーナスが入るぞ!だから、これをやり切ろう!」と。
でも実は、部下にとっては「仲間への貢献感」が一番のモチベーション。上司の言葉はRASを通り抜けません。
では、RASを通すためには、どうしたらいいのか。そのために考えるべきは、RASがどんな情報を重要と判断するのか、を考える必要があります。
答えは、「ゴール」に関係する情報です。自分自身のゴールによって、脳は重要なものかそうでないかを判別します。例えば、動物全てに共通するゴールは「生存」や「種の保存」です。ですから、生存に関わる情報は非常に重要ですね。ライオンに襲われそうになっている時、ライオンの横にたまたま咲いているきれいなお花は目に入らないわけです。なぜならゴールにとって重要ではない情報だから。また、新しい車が欲しいなと思っている人には、道行く車の中でも自分の欲しい車に似た車は型番まで含めて目に入ってくる、スイスイRASを通り抜けているわけです。
では、相手のRASを通すためには、相手のゴールを知る必要があるということです(詳細は「社長、部下のゴール知ってます?」参照)
ちょっとイメージしてみましょう。
あなたが、いつも、なんだか、この人には自分の意図が伝わらないなと思う部下の顔をパッと思い浮かべてみてください。
その方のゴールは何でしょう。何に関心があるのでしょうか。もし分からなければ、試しに何度か聞いてみましょう。
それだけでもあなたの意図は伝わりやすくなりますよ。また部下に対する見方も変わりますよ。もちろん部下だけではなく、お客さんにも奥さんや旦那さんも同じことが言えますね。相手のRASをとおしましょう。
さらに、もう1つ、相手に伝える上で、もっと前提となる重要なことがあります。それは、相手に意図を伝えるあなた自身のゴール設定とエフィカシーです。
まず、あなたが意図を伝えるゴールは何ですか?意図を伝えるために伝えているのですか?
それもYESでしょう。でも、その先、意図を伝えて、どうなるのがゴールのイメージですか?伝えた部下に何かしらの行動、できることならば自発的な行動を促したいのではないでしょうか。いちいち具体的な指示をしなくても意図をくみ取って自発的に行動してほしいのではないですか?
もしそうだとしたら、もう一つ質問です。あなたの頭の中で部下が自発的に行動するというゴールに対してどのくらいエフィカシーは高いですか?エフィカシーというのは「自己のゴール達成能力に対する自己評価」のことで、簡単に言うと「自分ならできる!という確信度合い」です(詳細は「エフィカシーとは」参照)。つまり、部下が自発的に動いてくれるということに対して、伝える前から、部下が自発的に行動するということにどのくらい高い確信をしていますか。言い換えるならば、部下が自発的に動いてくれるということがあなたにとって「呼吸をするくらい当たり前」のことになっていますか?
あなたが、部下は必ず自発性を発揮して、高いパフォーマンスを出してくれると信じ、そのゴールの臨場感(リアリティ)が高いほど、おのずとあなたは伝わる話し方をし、相手が自発的に動く話し方をします(「決め手は『臨場感』」参照)。そして部下が自発的に動いているという情報があなたのRASを通り抜けるようになります。いままで見逃していた部下の自発的な行動に気づくようになります。また、部下が自発的に動くように導く方法がRASを通り抜けて見えてきます。その時のあなたの気持ちとしては、「なんで伝わらないんだ」「絶対今日は伝えるぞ」といった「りきみ」ではなく、「伝わって当たり前」「1回でなくても2回、3回で普通に伝わっていくよね」という「穏やか」な気持ちです。これが高いエフィカシーの状態。そしたら、「勝手に」部下は巻き込まれるようになります。エフィカシーのレベルは相手に無意識を介して伝わっていくといわれていますので。
ポイントは、先にゴールを設定して、先にエフィカシーをたかめる、です。過去は関係ありません。これはテクニックというより、心構えに近いですが、心が世界をうみだします。少しテクニック的な話は「社長の意図を浸透させる技術」をご参照ください。
今日か明日、部下に大事な意図を伝えてみてください。その際、5分間、自分の話をした結果、部下がどのようになるか文章で箇条書きしてみてください。そしてそれを見て頭の中で実現している状態をイメージしてから部下と向き合ってみてください。穏やかな気持ちで。