離職率を下げるには
「部長、少しお時間をいただけますか?」と部下に言われて、ドキッとして会議室に向かう。すると部下が「今月いっぱいで退職させていただけますでしょうか」と一言。
そして、上司は、引き留めるために「君は何をやりたかったんだけ?」と話を聞こうとしてももう手遅れ、なんてことありませんでしょうか。
離職率が高くて頭を悩ませている企業は多いのではないでしょうか。
なぜ人が辞めていくのか、脳と心の仕組みから理由を説明すると、辞めていく社員個人は自分自身のゴールを、組織のゴールとうまく共有できていないからです。
ゴールが共有できている状態とは、以下のどちらかです。
① 自分のゴールを実現するためには、この会社で活躍することが手段になる(自分のゴールが会社のゴールよりも抽象度が高い場合)
② この会社の大きなゴールを実現する過程で、自分自身のゴールも実現する(会社のゴールが自分のゴールよりも抽象度が高い場合)
という関係性がつくれることです。①は例えばAさんは将来起業して自分の好きなテクノロジーで、世の中のコミュニケーションの形を変えるという壮大なゴールがあるとします。一方、Aさんが所属する会社はIT企業ですが売上至上主義で、営業力が強いと有名な企業です。Aさんは起業するためには営業力は基本的スキルとして重要だということで、この会社に入ったとします。これは、Aさんが将来起業して世の中を変えるという自分のゴールにおいて、この会社で活躍して営業力をつけることは手段になりえます。その関係性が持続している間、離職はありません。②は逆に会社側にはテクノロジーで世界中のコミュニケーションの形を変えるという壮大なゴールがあり、この会社に勤めるBさんは、子供のころからAIに関するプログラムをつくることが大好きで、その世界を極めたいととします。つまりBさんは会社の壮大なゴールを実現する過程において、自分自身のAIの世界を極めるというゴールを実現することができるという関係ができ、離職はありません。
この①もしくは②の関係性をつくる支援を会社側(上司)ができる能力を持つことが離職率を下げる上では非常に重要です。このどちらかの関係性をつくるという中には、当然、社員個人のゴールを会社側(上司)が一緒に考え、引き出すということも含まれます。
例えば、私がコーチングした、とある飲食チェーン店では、社員である店長がアルバイトのゴールを一緒に考えるコミュニケーションを頻繁に行うようになりました。アルバイトの学生C君、最初は、1200円の時給のためにこの飲食店で働き始めたわけですが、店長が、学校の事や、プライベートのことなど様々自分のことを聞いてくれます。それも過去の事よりもこれから実現したい未来のことをよく聞いてくれます。その対話の中でC君は、自分は何か新しいことにチャレンジしたいということ、お客さんの笑顔をみることが好きだということに気づき、それを店長に話をしました。すると店長は、早速ホールでお客さんの笑顔をいつもより10%増やすためのアイディアをC君に考えさせました。C君は自分の考えたアイディアを実現し、お客さんの高評価を得ることができました。この時点でC君のゴールは時給1200円ではなくなっていました。C君はその後も新たなチャレンジをして社員になる勢いです。そして、多くの友達をアルバイトとして連れてくるようになりました。こうして離職率は下がります。むしろ人を連れて来てくれるのです。ポイントは①か②のいずれかでゴールを共有するコミュニケーションを上司が行うことです。
副業やジョブ型雇用が当たり前になる中で、組織に属する構成員がその組織で自分のゴールを発見し、実現できるか、このイメージを組織側が個人に持たせられるかどうかが離職率を下げるカギになります。その意味で、これからの時代、組織としてゴールを共有するコミュニケーションは非常に重要な能力となります。認知科学に基づくマインドの使い方に基づきコミュニケーションできればその能力を社内に構築することができます。